和紙というと、紙を漉く姿がまず思い浮かびますが、
良い紙は、原料の下処理作業で80%が決まるとも云われています。
草木灰で煮る場合、楮の乾燥重量に対して約60%もの灰の量が必要になります。草木灰から灰汁(アルカリ液)をつくります。
楮に灰汁をいれ、数時間ほど煮熟し、数時間蒸らします。この作業で、繊維と繊維をくっつけている接着物を取り除き、繊維をとりだします。 草木灰でつくった灰汁では、楮の長い繊維がとりだせます。
一本一本の繊維を光と水に透かしながら、 繊維についている細かい塵を見逃さないように除去します。 また少しでも変色した繊維があれば除去します。ちなみに煮熟に苛性ソーダ(薬品)を使うとすぐに塵が消えますが、同時に繊維も痛み、 楮のもつ美しい艶も無くなります。
塵取りを済ませた繊維を欅の板に載せ、樫の棒で叩きながら繊維をほぐす作業。重要な部分は手でほぐし、手と目で確認しながら行われます。
ほぐれた楮の繊維を地下水に晒します。楮の繊維に含まれる大量の不純物、細かい繊維を流水の中で徹底的に取り除くと、一本一本の長い繊維が残ります。この作業により虫食いがなく、保湿性が高い強靱な繊維になります。
「トロロアオイ」と「ノリウツギ」をブレンドして、その時の紙漉きに最も適した粘度に仕上げます。
簀桁(紙漉き用の木枠)を前後に動かして繊維をすくいとります。市兵衛さんはコンマ何mmの範囲で漉き分けられるとか。 左の写真の簀は極細の竹ひごで一本一本途中で接いでいますが、和紙に接いだ所がうつらないよう、竹ひごの接ぎ方を工夫しています。 このような簀を作れる人は越前では2人だけです。
漉きあがった紙を一枚一枚重ね合わせ、重みをかけてゆっくり水分を絞り出します。
雌銀杏の板に貼り、室でゆっくり乾燥させます。越前では雌銀杏の板にのせると紙肌にきめ細かさがでると云われています。
一枚一枚紙を透かして確認し、検品します。
平成12年6月6日、8代目に続き人間国宝に認定される。和紙業界で人間国宝に認定されたのは3人。 そのうち3人が岩野さん親子。8代目は、水上勉の「弥陀の舞」の登場人物のイメージになったとも。9代目市兵衛さんは検品の際に、はねた紙はその場で紙を折り、 破棄してしまうそうです。品質に少しの妥協も許さない姿勢が伺えます。写真右は跡継ぎの順市さん。